「NiziU・ミイヒ 休養」、芸能や芸術は「痩せ姫」にとって毒かクスリか(作家・宝泉薫)
■レネ・マリー・フォッセンという痩せ姫の写真家としての芸術性
ミイヒの件とともに、それを最近、実感させたのがNHK・Eテレで11月6日に放送されたノルウェーのドキュメント番組「セルフポートレート 拒食症を生きる」である。
主人公はレネ・マリー・フォッセンという痩せ姫。10歳から拒食が始まり、その葛藤のなかで写真と出会う。「大人になりたくなかった。でも、写真を撮れば、時を止められると気づいた。いとおしい瞬間をフリーズできる」という動機から、自らの極限的な痩身を被写体として撮影。母親が「私たちには見えないものをあの子は見ています。あまりにも深い洞察」と驚く感性はそこに活かされた。30歳にして巨匠から認められ、写真展を開くまでになる。
彼女は代表作というべき自身のポートレートについて、こう語った。
「これはある意味、私ではない。もっと大きなものを表している。負の感情や苦痛を。(略)生きることの痛みと、そこにある美を表現したいのです」
写真での成功は、彼女に幸福をもたらした。「病人ではなく、芸術家としての人生を与えて」もらえるとして「私も少しはいい存在なのかも」という言葉も口をすることに。ただ、その矢先、交通事故に遭い、首を痛めてしまう。これによって、絶妙だったきわどいバランスを崩すのである。
そのバランスとは、拒食ゆえの感性と写真が撮れるギリギリの体力だ。彼女はその絶妙なきわどさを誰よりもわかっていた。首だけが治ればちょうどいいが、その流れで健康になりすぎては以前のような作品が生まれなくなるかもしれない。繊細で脆い彼女は、それを極度に怖れたのだ。
「病気を手放すのが怖い。創作活動に悪影響が出るかも」
と、不安にかられた彼女は人生初の自殺未遂を引き起こす。その後、1年間の入院を経て、状況は少し好転。写真を再開したものの、22年もの栄養欠乏がたたり、心不全で亡くなるのである。
その人生は、歌手のカレン・カーペンターを思い出させる。こちらも痩せ姫ならではの感性が成功につながったが、その繊細さや脆さが災いして、病気を手放せず、レネ同様、30代前半で世を去った。